ⓔコラム11-4-26 Roux–en–Y (R–Y) 症候群
症状
胃切除R–Y再建後には,器質的異常がないにもかかわらず,食事摂取で増強する慢性的な腹痛,悪心・嘔吐が出現する1).
R–Y再建後に挙上空腸 (Roux脚) の機能的な通過障害や残胃排出障害が起こり,胃や挙上空腸に食物の停滞をきたす3).本来,小腸各部に存在する収縮運動のペースメーカは上位腸管からの支配を受けているが,R–Y再建のために離断された際にRoux脚内に異常ペースメーカが発現し,逆蠕動,異常収縮,伝播の障害などにより食物の通過障害や逆流をきたすことが原因とされる4).発生頻度は,幽門側胃切除後 (30%)>胃全摘後 (8%),女性 (34%)>男性 (21%),迷走神経切除 (34%)>非切除 (24%),Roux脚平均長 (症状有群 (41 cm)>症状無群 (36 cm)) などと報告されている3).
術式との関連
Roux脚が長め,幽門側胃切除後で残胃が大きい,などの場合に発生頻度が高いとされる.残胃を小さめ (1/3以下),Roux脚を短め (幽門側胃切除;約30 cm,胃全摘術;約40 cm),uncut Roux–en–Y,にすると予防に有用との報告がある.
診断
R–Y再建後に上記の症状がみられ内視鏡検査・消化管造影にて器質的異常を認めない場合に診断する.残胃排出遅延やRoux脚内の停滞がみられる.
治療
確立された治療法はなく経験的に絶食や消化管運動改善薬投与が行われる.遷延 (せんえん) 化する重症例では外科的治療 (残胃の追加切除による縮小,Roux脚の短縮術) を行うことがある.
〔中田浩二〕
■文献
Mathias JR, Fernandez A, et al: Nausea, vomiting, and abdominal pain after Roux–en–Y anastomosis: motility of the jejunal limb. Gastroenterol, 1985; 88: 101–107.
川村雅彦,中田浩二:Roux–en–Y症候群.外来診療・栄養指導に役立つ 胃切除後障害診療ハンドブック (「胃癌術後評価を考える」ワーキンググループ/胃外科・術後障害研究会編),南江堂,2015; 47–48.
Gustavsson S, Ilstrup DM, et al: Roux–Y stasis syndrome after gastrectomy. Am J Surg, 1988; 155: 490–494.
Vantrappen G, Coremans G, et al: Inversion of the slow–wave frequency gradient in symptomatic patients with Roux–en–Y anastomoses. Gastroenterol, 1991; 101: 1282–1288.